

昭和元禄落語心中-助六再び篇- 1話 助六再び篇 反応・感想
「どうも、ご無沙汰しておりやして」
「さて、お待ちかねの昭和元禄落語心中」
「この話は刑務所帰りの与太郎が名人八雲師匠に弟子入りするってとこから始まりですが、
この与太郎、名前の通りどうしようもねえ馬鹿で、なんと師匠の大舞台の袖で居眠りこきやがって大失態をかましちまう」
これには師匠も怒り心頭!
『与太郎や、あたしの落語はよく眠れたかい? お前さんは破門だよ』
『すいやせん師匠! 破門だけは勘弁してくれ、この通り!』
泣きついて置いてかれて、ようやく話を聞いてくれた師匠は徐にこう切り出した。
『破門しない代わりに、なあ与太郎、お前さんはあたしと三つの約束をしないといけないよ』
『一つ、あたしと助六の落語を全部覚えること。
二つ、助六とした二人で落語の生きる道を作ろうって約束、欠けちまったその穴を埋めること。
三つ、絶対あたしより先に死なねえこと。』
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それから月日は流れに流れて十数年、師匠との約束を胸に修行を積んだおいらは、
念願かなってようやく真打にしてもらえるっていう話になった。
浮かれたおいらに姐さんが、とんでもねえことを言ってきた。
『与太、あたしね、子供を産むんだ』
『え!? 子供!? どういうこって姐さん!? 父親は!?』
『言いたかないね、この子はあたしが一人で育てるって決めたんだ。文句は言わせないよ』
『そうかい…なあ姐さん、おいら、その子の父親になれねえかい?』
なんも考えず、つい口をついて出た言葉。
だが、悪い考えじゃねえだろう?姐さんが一人で苦労するとこなんざ見たかねえし、
それだけ言ったら、今度は師匠のところに行かなくちゃならねえ。
協会の会長になった師匠は、以前にも増して大忙しだが、おいらどうしても真打になる上に頼みてえことがあったんだ。
先代の墓参りに来ていた師匠、その墓前でおいらは頭を下げて頼み込んだ。
『三代目助六を継がせてくだせえ』
ってな!
「決まってるねえ、与太!」
「んもう、おいら名前が変わるんだよ!」
「ははっ、助六って誰だよ?」
「おめえには与太郎がお似合いだよ」
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「与太、とっとと先に進みな。お客様はあたしが見たくて来て下すってるんだから。はいはいこっちもかい?」
「師匠がやりたかっただけでしょう」
「いつまで止まってんだい?与太ちゃん、歩いて!」
「与太郎、似合ってるよ!」
「みんなー!ありがとよー!」
「与太郎師匠のお通りだ」
@YUYUSHIKlisGOD
与太郎師匠のぉ!?お通りだあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!! #rakugoshinju
「与太郎さん」
「お久しぶりどす。この度はおめでとう」
「わー!満月兄さん!」
「あんた、思い切ったことしはりましたなあ」
「なんやねんな、助六襲名て。今更」
「八雲師匠はなんて?」
「ええ、眉一つ動かさねえで”好きにしろ”って、そいだけ」
「僕はやっぱり見込み無いんかな。結局、一回も見てもらわれへんかった。妬ましいな」
「兄さん、落語なんていつでも出来るんですから。そっち失敗したら戻ってきてね」
「やかましわ!」
「八雲師匠、戻られます」
「あ、師匠……あ、」
「どうも、本日はこのような祝いの席の大初日にお運び頂きまして誠に感謝申し上げます」
「こういう日には、あたくしが真打になった日のことを嫌でも思い出しちまうってもんです。
あんときも、大師匠を含め、たくさんの方に祝っていただきました」
「客席の空気がまるごと変わった」
「動いて喋らはるだけでこんなに人を満足させる。噺家の夢や。みんな、こんな存在になりたうて日々精進しはるんや。
噺家は老いてからが華やいうけど、間違いなく八代目は今が一番お美しい。
それをこの目で見れる。こんな贅沢あらしまへん」
「助六師匠、お嬢さんこっそりいらしてましたよ」
「松田さんよして。ちょっと寄ってみただけだってば」
「ええっ、嘘や、小夏はん! 今度こそ口説こう思て来たのに! いつ結婚しはったん? 旦那は誰なん? どんな男やの?」
「おいらの跡継ぎ。四代目助六です」
「嘘や! 妬ましわあ!」
「なんでこんなもんに持ってかれたんや」
「姐さん!」
「紋付でうろつくんじゃないよ。大初日に主役が抜けてどうすんの。打ち上げあんだろ?」
「松田さんに頼んできた。送ってすぐ戻る。大丈夫でぇ」
「ほい、兄さんがこれ着せてやれって。どうしたんでぇ、こんな薄着で」
「買い物ついでに気になって入っちゃったのよ。あんたがあること無いこと吹聴するから!
すっかり、行きづらくなっちゃったじゃない」
「だって、一緒になってくれんだろ? いま披露目中だから終わったら役所行って、式は姐さんがやりてえってんならやって、」
「やっぱやめた」
「ええっ!? なんで?」
「あんたとじゃ、あんまりにも不安すぎんのよ。金は無いし馬鹿すぎるし芸人だし未来もないし、考えれば考えるほどやっぱ無理」
「まどろっこしいな姐さんは。すぐ悪い方に考える」
「あんたのそれは憐れみよ。同情なんて勘弁して。あんたなんかに何がわかるんだい」
「憐れんじゃいねえよ! けどな、これだって立派な情だ。
同じ屋根の下でずーっといままで世話んなって一緒に暮らして、そいで沸いてきたこれが、情以外の何だってんだい。
色っぽさの欠片もねえ、惚れた腫れたとは違えかもしれねえ。
何の情だかわかんねえけどよぉ、とにかく姐さんはおいらにとって大事なんだ。」
「与太」
「え?」
「ありがとう……」
助六の高座見たという人に誘われて…
「すごいすごい、大したもんだ。踊れる芸人なんて近頃珍しいよ」
「師匠に叩きこまれまして。先生こそてえしたもんだ。演芸のことべらぼうに詳しいんだな」
「いやだ与太ちゃん、知らないで来んのかいこの子は」
「え?」
「樋口栄助先生。通称ひーさん。売れっ子作家なのよ」
「文化の寿命って知ってますか」
「え?」
「解説の要らない大衆文化としての寿命はだいたい50年だって言われてます。それ以降は残ったとしても、
大衆のものではなくなってしまうんだって。けれど落語は生まれて300年。
そしてまだ大衆に寄り添っている。どうしてでしょうね」
「難しすぎてわかんねえなあ」
「ですよね。実は昔、八雲師匠に弟子入りを断られたことがあるんだ」
「ええっ?」
「いやあ若かった。好きすぎてから回ってたんだ。断られてやけになってそこから落語を断ってしまった。
でもあの時期、少しでも弟子を取ってくれてたら、現状の落語会はもう少し良かったはず。
その死神がどうして今になって君みたいな未練を残そうと思ったのか、非常に興味深い」
「君は落語で師匠を越えられる日が来ると思う?」
「天地がひっくりけえっても無理」
「だよねえ。惚れて弟子になるってそうだもの。古典に挑むってことは、
数多の名人、大師匠が全身全霊で磨き上げたものを否定して更新しなければいけないということ
それを今君がやる利点は?」
「うーん、ねえなあ」
「けど君が大名人に勝てるところが一つだけある。君は生の高座を客に見せられる。
それがいかに強みか、落語家さんならすぐわかるだろ?」
「どうだ与太郎君、僕と一緒に新作落語作ってみないか?」
「先生物知りですげえなあ」
「なにそれ」
「先生の話はおもしれえ。落語が好きだって伝わってくる!とりあえず、師匠に聞いてみっからよ」
「あ、師匠、ざーす」
「なんだい来てたのかい、おはようさん」
「師匠は、新作落語ってのはどう思ってますか?」
「邪道」
「なんだいそのツラ。やりてえってのかい?」
「いや、へえ、実はちょっと…」
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「なんでもあたしの顔色を窺うんじゃありませんよ。真打なんですからご自分の責任でおやんなさい」
「へえ。それからあのー……あ、姐さんとのことですけど」
「ああ、それはあたしに断ることじゃねえだろう。あの子がどう生きようと自由」
「けどね、お前さんのことはどこに出したって恥ずかしくない弟子に育て上げたって自負はありますよ」
「それにあたり一つお願いがありやす!
二つ目を機に他で暮らしておりやしたが、また、この家にご厄介になってもよろしいでしょうか。」
「おいら、家族になりてえんだ。ずっと一人で生きてきた姐さんと師匠の。
それにはさ、またみんなで暮らさなくっちゃあ。助六を名乗ったからって代わりになんてなれっこねえ。
でもいつか、名前がなじみゃ二人んなかの助六をきっと変えられる!
師匠があの話を教えてくれたってことは、それを託されたんだと思ってるよ。
そのための三つの約束だ。師匠より先に死なない。
二人の落語を全部覚える。落語の寿命をおいらが伸ばす!」
「驚いた。十年も前の話だ。覚えてたのかい」
「あったりめえです!」
「言っとくけど、あたしゃやっぱり落語なんかは穢れる前に綺麗さっぱり無くなった方がいいと思ってるよ。
落語と心中。それがあたしのさだめさ」
「そうはさせません」
「なあ与太郎、あたしも一つだけ聞いていいかい、お前さん、何のために落語をやるんだい」
「へえ、それはもう、落語のためです」
twiterで反応が多かったシーンTOP3
3位「三代目 助六を継がせてくだせえ ってな」
2位「ありがとう…」
1位「またいい落語に会えた」
管理人の一言
いいい演出ですね…1話から30分が早かったです…wwww
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