

昭和元禄落語心中 第3話
「君には自分の落語がまだない!」
「おう!手前なんざ丸太ん棒に違ェねえや!ちんけいとう、株かじりに芋っ堀りめ!」
「いよっ、大統領!」
「で、どうしてチンピラやってた君が落語を?」
「昔話なんて先の週刊誌で懲り懲りなんだよ」
「たーまやー!!!!」
「ねえ今、与太の声聞こえなかった?」
「そうかい?んふふ、愛しい旦那様。連れ合やいいのに、別々かい?」
「よーう! お揃いで?」
「うあう!」
「へへ、くそ坊主~おめえも来てたのか。ははは」
「姐さん、ちったあ気分が晴れたかい? ずっと籠って子守してんだから、たまにゃパーッと遊ばねえと」
「あらやだ、似た者夫婦かい?」
「女将さーん!」
「へえ、店の前に刑事が来てて」
「ちっ、あのジジイ。どこで調べたんだか」
「あたしも行ってくる」
「あ、ちょっと!」
「ははっ、与太郎か」
「うわ!? 兄貴! 女将さんと姐さんは?」
「なんだおめえ、一緒だったのか。この後、椋鳥組との会合予定だったんだ。
刑事なんかいたら一発でおじゃんだったぜ。女将が根回ししてくれて無しになった。こういう店はありがてえ」
「そうかい。そりゃ良かった」
「ていうか、おめえ、久々だなあ。テレビじゃちょこちょこ見かけたけど」
「今親父さんはここにいなさるんで?」
「ああ?」
「ちょいと挨拶させてもらいてェな」
「おい!馬鹿!おめえみてえな下っ端が、会って話せる人じゃねえぞ!」
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「下っ端じゃねえ! 真打でィ!」
「与太! あんた何来てんのよ!」
「何でこんなとこ突っ立ってんの、姐さん、泣いてたね?」
「失礼しやす!」
「突然のご無礼ご容赦ください。師匠がいつもお世話んなっとりやす。
不肖、私も少なからず昔お世話になりまして、多少の縁がございますんで、
不躾ながら浴衣風情のはしたねえ恰好のままでご挨拶に上がらせて頂きました」
「聞きしに勝るでけえ声だなァ」
「良い挨拶だ。会いたかったよ、与太ちゃん。名前ェ、変わったんだっけ? こっち来いよ。花火が綺麗だよ」
「どうも俺はおめえに喧嘩売られてる気がしてならねえ。お勤め行ってくれたことも感謝してる。
八雲師匠にもずいぶん世話んなってるし、だから無傷で足抜けさせてやったじゃねえか。それでトントンじゃねえのか?
それとも何か、他に因縁つけてえことでもあんのか」
「姐さん!こっち来なよ!」
「っ!?」
「おいらさっきからもしかして、って考えが全然消えねえんだ。こうなったらハッキリさせとこうぜ」
「与太、やめな。それ以上何も言うんじゃないよ!」
「なんでぇ!おかしいだろそれ!」
「いいからやめて!」
「頭冷やせクソガキ! 小夏が嫌がってんだろうが。手前の正義で突っ走ってんじゃねえ」
「与太を許して! お願いです! ごめんなさい、迷惑かけて…あたしのせいです…ごめん…ごめんなさい…」
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「やいやいやい! 手前ら勝手に解決すんな! おいらが納得いかねえんだよ!」
「何ゴチャゴチャやってんだよ。この際だ、何でも言ってみろ。そうするかはそれから考えてやろう」
「よし言ってやらぁ!」
「あの子はおいらの息子でい!似てようが似てまいが関係あるかい!いいか、あとからくれったって絶対ェあげねえど!何にも疑うことはねえ!」
「だからこの話は今日限り、これっきりでお終ぇだ!」
「……ってえのが、あたくしの言い分でございやす。お粗末さまでございました」
「ぷっ、啖呵売りか。」
「でけえ声でつるつると出やがるから全く聞き惚れちまった。なあ真打、長ぇこと精進してきたんだな。随分良い噺家になったじゃねえか」
「姐さん、もう帰る?もうちょっとお祭り……」
「ちょいと顔貸しな」
「え?」
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「あの人には非は何も無いのよ。あたしが無茶言ってるだけなんだから」
「姐さんがそうしたくてしてるんだね?」
「全部覚悟してやってることよ」
「ならもう話してくれなくていいや! 世の中には言葉にしねえほうがいいこともある。隠し事のねえ人間なんて、色気がねえ」
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「あんたといたら不幸だって思ってんのも、馬鹿馬鹿しくなりそう。」
「ねえ与太、あんたの落語が聞きたいの。八雲とも助六とも違う、あんたの落語がこれからどうなるのか見てみたくなったんだ」
「おいらの、落語。……あぁ、どんなんだと思う?」
「知るかい。手前で考えな」
「ああああああ!!!」
「もう疲れた!帰るね」
「えー!?」
「与太さーん、もう終わったかね?」
「先生!いたんすかい」
「遂に君は自分の落語を見つけたね」
「ただいま戻りやした」
「師匠、おみやげ」
「暑気払いにピッタリだろ?師匠、姐さん、赤ん坊とおいら、家族四人分取ってきたんだ」
「立場ってのァ変わりますねぇ。落語っての知れば知るほど、師匠のすごさが身に染みてます。
いつかまた、立場が変わったら師匠にちょっとでも近づけたら、またでっけえハコで親子会がしてえっす」
「嫌だな、面倒。あたしゃ静かに手前の落語ができりゃいいんだ。大それたことをして心乱したくないんです」
「おいらの場合は自分なんてどうだっていいんです。こおいら、とにかく落語に出てくる人が好きでたまらないんです。
どんなどん底にいたってあいつら這い上がってくらあ。あいつらを、みんなに紹介してえんでえ」
「そいじゃお前さんがやる意味がないじゃないか」
「へえ、いいんです。おいらのことなんか」
「考ぇられないね。お前さんは我欲が無さすぎる。ありすぎんのも、無さすぎんのも問題だろう。」
「親子会はやってやらぁ」
「ええっ!」
「ただし、居残りを覚えなさい」
「えっ」
「あの演じ分けをやってごらん。もっと我を張りなさい。落語でお前さんの意思がちいとも見えないよ。
ただなぁ、うまい師匠が今いねぇんだ。あたしもとうに諦めて手放した話で…まあいい。ちょいと来てみな」
「そこへお座んなさい」
「へえ」
「えー、遊びにも上中下とございまして。上てぇのは廓には来ない客。上は来ず、中は昼来て昼帰り、下は夜来て朝帰り、」
(居残りやってくれんの? おいらのために? ええ!すげえ!)
(え、これ助六師匠の居残りだ)
(すげえ、すげえ師匠の面影がまるでねえ。助六さんそのものだ!生きて動いてたら、こんな感じだったのか…)
「へえ、旦那の頭が、ごましおですから」
「はあ……」
「――だから言ったろう、なんで早く蹴りをつけねえ?――…」
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「父ちゃんの落語が聞こえるよ。ね?しんちゃん」
ランキングTOP3
3位「うあう!」
信之助をあやす与太郎
2位「ってえのが、あたくしの言い分でございやす。お粗末さまでございました」
親分に対して啖呵をきる与太郎
1位「「暑気払いにピッタリだろ?師匠、姐さん、赤ん坊とおいら、家族四人分取ってきたんだ」
お土産に師匠に金魚を渡すシーン
@absinthe0126
おい松田さんがかわいそうだぞ!w
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